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a.概要
概要
(PICSY自体の)目標
PICSYの基本原理
PICSY Projectの方向・目標

b.モデル
GoogleのPageRank
水槽のメタファー
取引
予算制約
投資という性質
カンパニー
プロジェクト人事評価システム

c.特徴
・価値が伝播する貨幣
・すべてが投資の貨幣
・組織をバーチャルにする貨幣
・コミュニケーションを変える貨幣
・より公正な貨幣
・一瞬一瞬が均衡している貨幣


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■概要

 PICSYは、伝播投資貨幣(でんぱんとうしかへい:Propagational Investment Currency SYstem)の略で、価値が人から人へと伝播していくという興味深い性質をもった新しい貨幣システムです。コンセプトがまだ新しいので実用段階まではいっていませんが、PICSY Projectは、PICSY実現のためのデモンストレーションソフトウェア開発と技術的、経済学的検証を行っています。なお、本プロジェクトは、情報処理振興事業協会(IPA)の「未踏ソフトウェア創造事業」のプロジェクトに採択され、支援されています。

 PICSYとは何かと一言で表現しろといわれれば、たとえば次のようにいうことができるでしょう。
  ・価値が伝播する貨幣
  ・すべてが投資の貨幣
  ・組織をバーチャルにする貨幣
  ・コミュニケーションを変える貨幣
  ・より公正な貨幣
  ・一瞬一瞬が均衡している貨幣

 AさんがBさんに何かを貢献して、BさんがCさんに何かを貢献したら、CさんからAさんまで感謝の価値が逆流していくようなシステムができないでしょうか。たとえば、AさんがBさんに20%の貢献をして、BさんがCさんに30%の貢献をしたときに、AさんがCさんに対して20%×30%=6%の貢献をしたことにはならないでしょうか。(fig.1) A→B→Cと単純に直線的につながっているのでしたら、なんとか計算する方法はあるでしょう。

fig1.感謝の伝播
 しかし、ループになっていた場合は?(fig.2) もっと複雑なネットワークができていた場合は?(fig.3) とても普通の計算方法では、その人の行った貢献を計算することはできませんが、PICSYは行列計算という数学的方法によってそれを可能にしました。
fig2.ループの場合 fig3.ネットワークの場合
行列計算自体は、大学の1・2年生のレベルで勉強することなので、それほど難しいものではありませんが、必ずしもみんながみんな知っているわけでもありませんので、詳しく説明することにしましょう。

fig4.ポンプでつながれた水槽
 ここに、参加者の人数分の水槽があって、各々の水槽がポンプでつながれているとします。たとえば、3人の人がいたら3つの水槽があって、9本(1人の水槽から、自分の水槽も含めたすべての水槽にポンプがつながっているとすると1人あたり3本のポンプがでている)のポンプでつながれているということです。(fig.4)
fig5.水を別の水槽に移す  この9本のポンプは、1回の動作で、水槽の中の水を別の水槽に移動してしまいます。いま、1本の水槽から3本のポンプがのびているのですから、ある水槽に5リットルの水があったとすると、1回の操作でこの5リットルを3つの水槽に振り分けるわけです。3本のポンプは各々性能が異なっているので、性能によって量が多かったり少なかったりしますが、その比率は水槽の水の量と関係ないとします。(fig.5)
fig6.定常状態  このようなシステムがあったときに、ポンプを何度となく作動させると、あるときから、4つの水槽の水の量は変わらなくなります。つまり、水槽から出て行く水の量と水槽にはいってくる水の量が等しくなるのです。この状態を定常状態といいます。(fig.6)
fig7.価値(ポンプ強さ)と貢献度(水の量)  さて、伝播投資貨幣とどのような関係があるのでしょうか。伝播投資貨幣では、ある人から別の人にでているポンプの強さ(何%の水が別の水槽に移動するか)価値にあたります。そして、定常状態(ここでは、水の量は時間がたってもかわりません)の水槽の水の量を、その人が社会全体に与えた貢献度とみなすのです。(fig.7) 貢献度を購買力にみたてることによって、「人々が社会に貢献した度合いによって購買力得る社会」を実現することができます。


■(伝播貨幣自体の)目標

 伝播投資貨幣の最終的な目標は、この貨幣システムが現実の経済システムで使われ、より公正で活発な社会が実現することです。これには大きく3つあります。ひとつは、組織がバーチャルになることです。伝播投資貨幣は、企業(PICSYではカンパニーといいます)が最初からバーチャルな存在として認識されており、貨幣を保有することができるのは実質的には個人のみに限られています。このようなシステムにもかかわらず、大規模な生産活動に利用できることが目指されています。第二に、コミュニケーションのあり方が変わることです。PICSYでは、「売る」という行為は投資とと同じ意味をもっています。たとえば、従業員は労働力を売ることにより、企業に対して投資をしていることになります。既存の製造業においては、孫請け、ひ孫請けに至る階層構造がありますが、PICSYでは、下請け会社がより上の会社に投資をしていることになります。また、医者は患者を薬漬けにするよりも、元気になって社会に利益を還元できるように回復させたほうがより儲かるようになります。このような「投資」という性質により、社会取引におけるコミュニケーションのあり方が変化することが想定されます。第三に、より公正な社会が実現することです。PICSYではレントがシステムとして認められていません。PICSYは「その人が社会にもたらした貢献度に応じて購買力を得るべきである」という考え方に基づいて、システムが設計されています。


■PICSYの基本原理

 PICSYは、「その人がコミュニティに与えた貢献度に応じて貢献を受ける権利(購買力)を得るべきである」という互酬制原理とよぶ考え方に基づいています。互酬制原理をひとたび認めれば、あとは、「いかにしてその人がコミュニティに与えた貢献度を測るか」という問題と、「貢献度をいかにして購買力に結びつけるか」という問題に答えを与えればいいことになります。最初の問題については、行列計算とよばれる数学的な手法を用いて、「一瞬一瞬を均衡させる」ことによって解決します。次の問題については、貢献度に応じて高額のモノを買うことができる仕組みを用意します。互酬制原理は、「より公正な貨幣」を目指しています。そのためには、「価値が伝播する貨幣」でなくてはならないので、必然的にそれは「すべてが投資の貨幣」になってしまいます。
 第二に、PICSYは、「組織はバーチャルな存在でなくてはならない」という考え方に基づいて作られています。これを仮に組織仮想原理とよぶことにしましょう。組織は、あくまで個人の集合であって、それ以上の実体的な役割をもつことができません。PICSYでは、組織は貨幣を所有することができず、あくまで個人の所有する貨幣をプールすることしかできません。しかも、一瞬一瞬の計算時にそれらの組織は毎回、仮想的に解体されることになっています。
 この2つの原理とそこから派生する性質によって、PICSYは「コミュニケーションを変える貨幣」になるのです。


■PICSY Projectの方向・目標

 PICSYは行列計算という数学的手法を使うため、言葉で聞いただけでは分かりにくいところがあります。そこで、デモンストレーションソフトを開発することによって、みなさんにPICSYが一体どういうものなのかを実際体験してもらおうというのが、PICSY Projectのまずの目標です。
 ところで、似たような行列計算でコミュニティ内での評判をはかっている仕組みとして、有名な検索エンジンGoogleがあります。システム的には完全に同じではありませんが、こういう仕組みを実際に働かせるとどうなるのか体験できるという意味でGoogleは貴重です。使ったことはありますよね?)
 もちろん、GoogleはWebサイトの評価・検索システムでPICSYは人間の評価システムですから、いろいろと違いがあります。そこで、デモンストレーションソフトを開発することによって、PICSYの検証を行ってゆくわけです。
 現在開発しているのはデモンストレーション用のソフトウェアですから、実際の運用で使われることは想定されておらず、実行速度(パフォーマンス)などは考慮されていません。  PICSYのデモンストレーションソフトなので、PICSY demoと呼ぶことにしましょう。このソフトは、Appletとしてみなさんのパソコンで実行することができます。


レベル 経済活動レベル(E) 組織レベル(O) デモレベル(D)
1 コア(モデル) C2C 経済学者
2 ソロエージェント B2C 有識者
3 マルチエージェント B2B 興味のある一般の人
4 多様な経済アクター B2E 一般の人



 PICSY demoは、3つの方向に独立に発展していきます。
 1つは、組織レベルです。レベル1では、C2C(個人間取引)が可能ですが、レベル2では企業の概念が導入され、B2C(企業個人間取引)が可能になります。レベル3では、さらにB2B(企業間取引)が可能になります。このあとは、レベル4として、企業の人事評価システムや、コミュニティサイトにおけるピアレビューシステムとしてのモデル化が予定されています。ここではdemoではなく、実際の運用ベースになるでしょう。
 2つめは、経済活動レベルです。レベル1では、PICSYの口座管理の仕組みだけが導入されます。実際にPICSYが運用されるときに必要なのは、レベル1までです。レベル2では、エージェントが実際にモノを仕入れて生産をして、生産物を販売します。ここでは定価をきめたりといった実際の経済活動がPICSYでもできることを示す目的で設けられています。レベル3では、多数のエージェントが実際の経済活動を行います。レベル3の目的は2つの指標をとることです。ひとつは、PICSYでは個人の生産活動がうまくまわっているか、いわば経済効率をみることです。経済効率が悪いシステムであっては、現実可能性があるとはいえません。ふたつめは、貢献度に応じて果たして本当に購買力を得ているのか、いわば公正なシステムなのかをみることです。
 3つめは、デモンストレーションの分かりやすさです。
 この3つの階段を各々のぼっていくことによってPICSY demoは発展していきます。PICSY demoは以下のアウトプットを目標とします。
(※下記リスト中、"E1""O3"などの記号は、前出の表の、レベル1〜4およびE,O,Dの組み合わせになっています。合わせて確認ください。)
  • 正しい伝播投資貨幣コアシステム(勘定系)をつくること(E1)
  • このコアシステムによって、通常の経済活動が行えることを示すこと(E2)
  • このシステムが既存の貨幣システムに比べて公正であることを示すこと(E3)
  • このシステムが既存の貨幣システムに比べて効率的であることを示すこと(E3)
  • このシステムが大規模で複雑な経済活動から日常の経済活動までカバー可能であることを示すこと(O3+E4)
  • このシステムによって組織がバーチャルになることを示すこと(E4+O4+α)
  • 以上のことをデモンストレーションするソフトウェアを開発、公開すること(D1=>D4)